月の記録 第22話


ブリタニアの政策は、緩やかに、だが確実に変化していった。
この程度の甘言に騙されるほど馬鹿では無いと、反発するナンバーズ。
劣等種相手に温情は不要だと、反発するブリタニア人。
それらを上手くなだめすかし、宰相シュナイゼルは法整備も含め、着実に多くの人々が願い望んでいただろう世界を作り上げていった。それは弱肉強食に反するものであったが、政策に関して皇帝は口出しする事は無かった。
我々を馬鹿にするなと、最初こそテロが活性化したが、ナンバーズの雇用促進や福利厚生、保険関係の整備が進むにつれ、反乱分子の活動は沈静化していった。折角良い方向に変わってたのに水を差すなという世論が大きくなったせいか、テロに参加していた者たちの生活が豊かになり、犯罪を犯すのをやめたのかは定かではない。
これを喜ばないのは主に特権階級。
ここにいるのものその一人だった。

「下らないな。なぜブリタニアが、属国に媚を売らなければならない。こんな事をすれば、ナンバーズがつけ上がるだけだ」

移動中の車内で新聞に目を通していたルルーシュは、吐き捨てるように言った。

「そのような事はありません。ナンバーズが安定した生活を送れるようになり、尚且つテロ活動まで鎮静化したのですから、ナンバーズ、ブリタニア双方に利があったと考えられます」

共に車内にいたのは皇帝の騎士・ナイトオブセブン。
ルルーシュの元専任騎士だった男だ。
今日から1週間、遠方に視察へ行くルルーシュの護衛として共に行動していた。皇帝の勅命のためルルーシュは拒否できず、、ジェレミア達はアリエスの警護がある。仕方がないと渋々スザクの動向を許した。
緊急時、歩みの遅いルルーシュを運ぶには、女よりも男の方がいい。皇帝付きのヴァルトシュタインと、性格に問題のあるルキアーノを除けば、動けるのはジノとスザク。
怪我をし、松葉杖をついているルルーシュの世話をするにも、良く知った者の方がいいという判断もあり、スザクがルルーシュの傍につき、視察先の土地に明るいジノが全体の指揮を取る形で現在移動中だった。 役立たずの皇子のためにラウンズが二人も出る異常事態に、今頃皇宮は大騒ぎだろう。

「お前、この俺に意見するのか?父上の騎士になってから、随分と態度が大きくなったものだ」
「い、いえ、自分はそんな・・・」
「そういえば、この下らない提案もお前がしたんだったな。自分の功績が誇らしいか?良かったな、俺の元から離れたおかげで、次々と成果をあげているじゃないか」
「そのような事はありません」
「よく言う」

ばさりと新聞を足元に投げ捨てたので、スザクはそれを拾い、折りたたんだ。

「何故スリーではなくお前がここにいる」
「少しでもルルーシュ様のお近くにいた者をという陛下の配慮です」

ルルーシュもその事は解っている。友好的とは言い難いが、スザクよりもジノの方がましだと、本人を前にして平然と言い捨てた。スザクとしては、久しぶりに堂々とルルーシュと接する事が出来るのだからジノに譲る気は無い。
ルルーシュの傍にいた時は役に立たない名前だけの騎士と思われていたが、今はこうして功績もあげているから、少しは認めてもらえるのではないか、少しは見てもらえるのではないかと期待したが、ルルーシュの態度は相変わらず冷たかった。

「成程、お互いに迷惑な話だったわけか」
「そのような事はありません!自分は殿下とこうしてまた」
「煩い、黙れ。お前に発言権は無い。俺は暫く眠る」
「・・・イエス・ユアハイネス」

ルルーシュは僅かに顔をそむけ、窓に寄り掛かった。暫くの沈黙の後静かな寝息が聞こえてきたので、本当に眠かったのだろう。見回してみたが、この車内にはブランケット一つ無かったため、スザクはラウンズのマントを外した。

「失礼します、殿下」

そっと、起こさないようにマントを掛ける。深く眠っているらしく、気付くことなく眠る姿にほっと息を吐いた。
あの頃と変わらず、心底嫌われているのだと再確認するのは辛い事だが、それ以上にルルーシュの無事な姿を確認できたことが嬉しかった。ベッドに横たわる姿を覗き見たあの日以降も部屋にこもり、世話係以外入室が禁止されていたため、心配していたのだ。先日、ようやく姿を確認できたとジェレミアが興奮しながら電話をかけて来たのを思い出す。
寝ている今のうちにと、あの日瓦礫の下に埋まっていた足を見るが、ギブスをしているわけでも、包帯を巻いているわけでもないため、杖が無ければ怪我をしているとは解らない。どの程度のものだったのか確認したいが、流石に目を覚ましてしまうからそれは諦める。
今以上に関係が悪化するのは避けなければならない。
最悪の想像・・・足を切断していなかったならそれでいい。義足の可能性もあるが、護衛である自分はその事を知らされていないから可能性は低い。切断後手術をした可能性もあるが、元通り歩けるなら何も問題はない。
こうして無事に帰ってきてくれて、同じ空間にいる事が出来る。
それだけで今は十分だと、スザクは眠るルルーシュを見つめた。

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